2009年07月01日

「日本固有の領土」の起源

北方領土を「我が国固有の領土」と法的に初めて明記した北方領土問題等解決促進特措法(北特法)改正案が、6月11日の衆院本会議で全会一致で可決されたことを受けて、ロシアの外務省や下院が強く反発している。

「日本固有の領土」という定義不明瞭な言説がどこから出てきたのか調べてみたところ、相当に切実かつ悲壮感あふれるものがあり、長文になるがここに紹介しておきたい。
 日本國北海道選出衆議院議員の名において、連合國軍總司令官マツカーサー元師閣下に對し請願したのでありますが、ここに私より衆議院に請願の紹介をいたします。
 現在ソ連軍の占領しております千島諸島のうち、擇捉島、國後島及び根室國の一部であります色丹諸島、その色丹諸島の名前は色丹、多樂、志發、水晶、エリ、アキユリの各島でありますが、これらは日本固有の附屬諸小島であるにかかわらず、現在ソ連軍の占領下にあつて、北海道本島と一切の交通を遮斷されておるために、地方の民衆が多大の困難を感じておる事情を申し述べてあるのであります。
 その内容を申し上げますと、現在ソ連軍の占領下にあります北海道色丹諸島は、行政的にすでに徳川時代から北海道本島の根室の一部をなしておりました。地理學的についても千島列島には含まれません。しかしてこれに接續する千島列島のうち択捉島、國後島は一八五四年、すなわち安政元年、日本國ロシヤ國通商條約により明確に日本領土であります。さらにこれを裏書する事實といたしましては、一八七五年、すなわち明治八年、樺太、千島交換條約があります。この條約にも擇捉島以南の諸小島は交換の對象とはなつておらず、クリル群島十八島すなわちウルツプ島以北でありますが、この十八島をもつて樺太と交換することを規定してをおります。すなわち擇捉島、國後島はこれが交換の對象でないことが明瞭であり、日本固有の領土なることを嚴然事實に示してあります。從つてこの二島は、ロシヤから譲り受けたるものでもなく、いわんやカイロ宣言の、いわゆる暴力及び貧欲に依り日本が略取した領土でもありません。ただクリル群島を譲り受け、以後この二島を併せ日本國において千島列島と總稱するに至つたものであります。擇捉島、國後島には二百年以前より日本民族が居住して漁業を經營しております。すなわち明治維新を去ること百數十年前よりわが民族が居住し、異民族が居住した事實がなく、その傳統は實に歴然としておりまして、殊に北海道住民との間には血族の關係からいつても、經濟上の關係からいつても、深くかつ古い結びがあるのであります。しかるに今これらの諸島は北海道本島とは完全に切り離されていて、その結果北海道北部の漁民は、かに、さけ、ます、たら等の最も重要な漁場であり、こんぶの採取場であるこれら諸島附近の水域を失つたのみならず、出漁する度に霧の深いこの水面でソ連軍占領下の諸島の水域に迷い入つて抑留されたりして、多大の不便を感じております。
 さらに日本漁業の三分の一は北海道において生産し、北海道における漁業精算の三分の一は根室、千島方面にあるのでありますから、これを失えば日本人の蛋白質源は深刻に不足を生ずるのであります。これらのことを考察するときは、まことに深憂にたえざるものがあります。
 終戰以來右諸島はソ連軍の占領下にあり、北海道本島民とこれらの島民との一切の交通は、鐵のカーテンをもつて隔絶されており、この地域の同朋がいかなる程度の民主的な自由を與えられておるのか判明いたしませんが、北海道本島においては、すでに米占領軍の理解ある指導のもとに、民主政治の發展漸く顯著なるものがあり、かかる情勢下に北海道島民の自由な意思によりその代表として選ばれ、國會に席をおくわれわれとしましては、わが親愛なる郷土、郷民の一部が、かかる鐵のカーテンの後ろに切り離されておる事態につき、かねがね憂悶を禁じ得なかつた次第であります。
 でありますから人類の福祉、繁榮と自由、平等を信條とせらるるところの各位にいきましては、十分にこれを審査せられ、この目的を達成するように特にお願いするのが、この請願の趣旨であります。何とぞ御採擇をお願い申し上げます。

これは日本自由党(当時)の北海道二区(旭川)選出の代議士である坂東幸太郎氏の発言。
1947年10月6日、新憲法制定下で行われた最初の選挙を経ての衆議院外務委員会において、「擇捉島、國後島及び色丹諸島を日本領土に復歸の請願」の審議に際して、紹介議員本人から説明したもの。
今日ではまともに審議されずに全通ししている請願だが、当時はきちんと審議にかけられていたことが分かる。
ちなみに、坂東氏は立憲民政党上がりで戦中は大政翼賛会に入らず無所属で当選を続けた硬骨漢で、婦人参政権を推進したリベラル派の老闘士。
一次産業への依存度が極めて高い北海道にあって、オホーツク海における漁船の操業は死活問題であったことが伺える。北海道民を代表してマッカーサーに請願せざるを得なかったことからは、敗戦の痛々しさがにじみ出ている。信念の力強さといい、演説の格調の高さといい、国会議員の鏡であり、今どきの議員に見習わせたいところ。
だが、アイヌの存在や権利が完全に無視されていることや、千島樺太交換条約に関する理解については問題があると言わざるを得ない。

ちなみに、千島樺太交換条約の第二款で、クリル列島とはシュムシュ島からウルップ島までの18島を指していることをもって、サンフランシスコ講和条約で放棄した千島列島に北方領土は含まれないとする言説が今日に至るまでまかり通っているが、これは誤った日本語訳を参照した結果であり、条約の正文たるフランス語を読む限り、そのような解釈が成り立つ余地はない。
また先日もある民主党の議員が、下田条約(日露通好条約)を根拠に「日本固有の領土」論を展開していたが、同条約は日露戦争(とポーツマス条約)によって破棄されている。うろんな知識で北方領土問題を扱うのは危険でしかない。

逼迫した北海道民たちの切実な訴えは、米帝の棍棒外交と利権マフィアによって歪められ、利用されてしまったのである。
誠実なる老闘士よ、以て瞑すべきか……
ニックネーム ケン at 02:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 政治、社会
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